国際線ビギナー
やはり、出発前は色々とドラマティックに演出してみたいものである。
例えば今回は、少しナーバスになってみたり、ほろっと別れを惜しんで泣いてみたり、しばらく食えないであろう饂飩(うどん)をかき込んでみたり、無駄にウォシュレットを使ってみたりした。
ところが。
成田空港の保安検査場を通る時には、さぞ不安で寂しくてせつなくて愛おしい人も心強さもない、いわゆる「篠原涼子」状態がマストだ、などと予測していたが、意外にもスーッと普通の顔をして通ってしまった。何もなさすぎて思わず保安検査場の入り口を振り返るが、何もない。意識しすぎている時、「ドラマティック」は始まらないのだと再認識した。
続いて出国審査。今は自動ゲートでものすごく味気なく、スタンプがほしい人は言いにきてねという感じだったので、迷わず押してもらった。ミーハーなのでパスポートのスタンプはやっぱりほしい。
さて、免税店もほとんど開いておらず“待ち時間=暇時間”が膨大にあるなか、なんと飛行機が機材到着遅れで、出発時刻が40分おしていた。新大阪から新幹線で東京に向かうときドクターイエローをみて「幸先いいなぁ」と思っていたのに、「運」はもうここで回収されてしまうのである。
待ちつづけて40分。ようやく搭乗受付が開始され、スルスルとみんなが吸い込まれていく。飛行機はエアカナダで、ボーイング787だ。
機内に入るとマスク・お手拭き・ハンドジェルがセットになった「CLEAN CARE」なるものを渡され、早々に手を消毒し清める。
バタバタして座るとすぐに動き出した。直行便なのでフライト時間は8時間半。意外と短いが、それでもじっとできない私は苦痛なのである。
ちなみに私は窓側だったが奇跡的に隣がひとつ空いていて、肘置きから肘を出し、足を少しばかり開くという横柄な態度をとらせていただいた。その隣には心優しい青年が座っており、「荷物おこうか?」とか「飲み物まわって来てるよ」などと英語で話しかけてきてくれて気分はもうすでに海外だ。
さてさて、約2時間くらい経ったところで、お待ちかねの夕食である。
飲み物を頼む時、なぜか緊張してしまい頭に思い浮かんだのが水だけだったので「Water please.」とお水をもらったら、なんと食事にも水がついてきた。こんな狭い場所で「意識が高い演出」をしても意味がない。
そして驚くことにこの水は非常にマズかった。
やるせない思いをしながら、ごく普通味の夕食を一人食べたのである。
夕食後しばらくはフリータイムが続く。目の前のモニターは食事のメニューから映画、音楽、クレジットカードの宣伝まで内容豊かだ。私は最近お気に入りの「クルエラ」を英語字幕でみてみたりした。さらに、機内で快適に過ごそうと、ダイソーで400円だった本末転倒ネックピローを購入していた私はもちろん首に装着してみたが、低反発が売りなのにものすごく高反発だった。さらには首自体も締め付けられ顔に血がまわらず、「縁石に頭置いてる・・・?」と錯覚し始めたので程なくして使用を諦めた。
30分の命だった。
居場所のない本末転倒ネックピローは、左足のふくらはぎに装着されるという前代未聞の場所が定位置となり、カナダ到着前にただの荷物になったのである。
まだまだフリータイムは続く。フリータイムはなんとも忙しない。映画をみたり、窓側なので可能な限りおしっこを我慢してみたり、音楽を聴いてみたり、できるだけおしっこを我慢してみたり、wi-fiに繋いでみようとしてなぜか繋がらなかったり、はぁトイレ行きたい・・・と3時間経ったところで青年の足をまたぎトイレに行かせてもらった。
いよいよ到着2時間前。なんとなく2時間くらいは寝ただろうか。お腹もさほど空いていないが、もう朝食だ。りんごがうまい。メロンはシャキシャキ。メインは普通。まぁこんなもんだろう。
夕食の二の前にならぬようオレンジジュースをお願いし、ポヤポヤご飯を食べていると朝日が見えてきた。日付変更線はとっくに越えて、いよいよバンクーバーに近づいてきたのである。
日は昇り、街並みも見えてきた。思っているよりも田舎だが、田んぼの面積がめちゃくちゃでかいこと、右側通行の車、見たことのない大きくて続いている山脈など、異国の地の上空であることは間違いなかった。
バンクーバーの上空を大きく旋回しながら徐々に空港へ近づき高度を下げていく。日本とは違う景色を眺めながら、半年ここに住むのかと思うとようやく緊張感が出てきた。数多くの応援メッセージをいただいたが、空港に到着したらいろんな試練が待ち受けているので、返信どころではないだろう、きっと。
そうこうしているうちに無事滑走路を滑り込み、飛行機は規定のスポットへ到着した。
ところが、「さて!降りますかぁ」と一人で意気込んでいたところ、ボーディングブリッジ(飛行機の扉にくっつく連絡橋)が故障して動かねぇなどと言われ、全員飛行機に30分待機することになってしまった。そんな故障聞いたことがない。しかも、「ボーディングブリッジはバンクーバー空港の管轄なのでエアカナダは何もできません。」と特に必要のない情報もアナウンスされ始めた。
高めていた気持ち返せよ!
とモヤモヤしていたが、空港のwi-fiがきれいに入ったのでメッセージの返信は見事にできた。その後、どう故障していたのかわからないが、なんとか修復できたのであろう、人が流れ出した。
流れのままボーディングブリッジを歩く。
途中ふと見上げたら、「Welcome to Vancouver」と書いてあった。
新天地での生活がまもなく始まる。
カナダに渡ったのですね…
人生に前向きな姿勢素晴らしいです
個人的には男性が1番輝くのは30代前後だと思っております。
お体にお気をつけて。
これはこれはご無沙汰しております。
そうです、カナダに来ております。近況報告よければお待ちしております。