スタンレーパーク
無駄にダウンタウンに早朝入りし、用事を終えた我々は、村上が激推しの、、、というか、恐らく彼はそれしか知らないであろうスタンレーパークへと向かう。
スタンレーパークは、ダウンタウンで1番大きな駅、ウォーターフロント駅からバスで15分くらいのところにある非常に大きな公園である。

めちゃくちゃ大きい公園らしく、総面積は405haだそう。テレビっぽく言うと東京ドーム88個分、USJの7.5個分、大阪国際空港の1.3個分、伊勢神宮の0.07個分らしく、スタンレーパークの大きさよりも「おいおい伊勢神宮が想像の100倍大きいな」と言う感想になったが、神様と比較してはいけない。欠陥住宅の私の実家と皇居を比較しているようなもので、自分でも何を言っているかよくわからないが、そういうことなのである。
本来はバスで公園の入り口まで行く方がベターな選択だが、私たちは有り余る時間を費やすため、歩いて向かうことにした。

歩きながらお互いの痴話(ちわ)をしたのだが、どう足掻いても「痴話」であるので、内容は覚えていない。
唯一覚えているのは、村上が「もう少しで着きますから」と6度ほど私に声かけをしてきた。
確かに近い距離ではないが、そんなに心配されるほど弱音を吐いた覚えもないし恐らく辛そうな顔もしていない。
彼はまるで24時間マラソンの坂本トレーナーのようだったが、休憩ポイントでカレーをくれたり足裏マッサージをしてくれる素振りもない。なんと薄情なやつなんだ。
そもそも村上がアホほど早く行きましょうなどと言わなければこんなことにはならなかったのだ。
そんなことを思っていたら足を挫いてしまい左足首がまぁまぁ痛くなってきたが、村上の心無いサポートもあり無事に公園についたのである。(念の為言うが、村上は良いやつである。)

ようやく辿り着いた公園の入り口には、公園全体の地図が掲示されていた。
デカい。
デカすぎる・・・と心配したのは、全部楽しめるかよりも心配したのは私の足である。
村上に散々いじめられたのに(村上は良いやつである2)、今からまたさらに歩かないといけないとなると私の足はもう終わる。
私「全部歩くの・・・?」
村上「トーテムポールが有名なんですよ、俺もそこまでしか行ったことないので・・・そこまで行きましょか」
私「(こいつ、トーテムポールしか知らないのに公園の全てを知ってるかのように喋ってたの・・・)はい、向かいましょう」
そうして、知識を誇張する村上(村上は良いやつである3)と私は秋風漂うスタンレーパークを歩く。

公園の周囲は自転車専用と歩行者専用の道に分かれており、歩きやすい。
ただ間違って自転車道を歩いてしまうと、普段穏便なカナダ人に「標識書いてあるのわからないの!?歩けないんだよここはクソが!!」と罵倒される。(実際道を渡るときに間違って自転車道に入ってしまい怒られた。)

しばらくすると、トーテムポールのゲートが見えてきた。足を引きずりながら近づいていく。

トーテムポールは先住民族が家の中や家の前、お墓などに立てた彫刻の総称らしい。「家族の出自、家系に関わる紋章や、「所有する」伝説、物語の登場者など文化的伝承に基づいて彫刻された」とウィキペディアが言っている。それぞれの意味を知りたい気持ちもあるが、どうにもこうにも足の痛みが気になって集中できない。
私「この後どうしよか、ダウンタウンに戻って何か食べる?」
村上「ちょっともう少しだけ進んでくるっと周って帰りましょか」
私「・・・はーい」
と容赦無く村上は進む。
私も一言「足が痛い」と言えばよかった。だが、32歳の私が年下の村上に弱いところを見せられない、「意外と体力ないんすね」とか言われたくないと、なぜだか思ってしまった。本当に無駄な強がりだが、もう後には戻れない。

トーテムポールから先に進むと、ウェットスーツを着た少女の銅像が少し離れた岩の上に設置されているのが見えてきた。
海人さんにも見えるが、「Girl In Wetsuit」と表記されており、来る日も来る日もウェットスーツを着ながら少し離れた岩の上に居なければならない彼女の気持ちを考えたら、「足は痛いが動ける自分は自由だな」と都合よく前向きな気持ちになれたのである。
その後、公園内にある水族館やレストランなどの横を通り、とにかく左足をかばいながらなんとか入り口まで戻ってきた。
もちろん私はバスに乗り帰るつもりだったが、村上はそうではないらしい。なんだかもうどうでもよくなってきてテンションが上がってきている私。
村上「ちょっとダウンタウン歩きましょうよ」
私「はーい行こうぜ!!」
もう完全に足がバグってきているが、お構いなしだ。美味しそうなパン屋さんやおしゃれカフェ、あんまり状態の良くない八百屋さんなども見つけたが、もはやどうでもいい。今は、とにかく座りたい、そして喉が渇いて口の中が肥溜めのような臭いがしている。
私「ちょっと水買って良いですか」
村上「ここで買いましょか」
ということで薬局がありそこで水を買う。が、ここで少し海外の洗礼が。
ホームレスが店内をウロウロしており、唐突に声をかけてきた。
ホ「君たち何しにきてるの」
私&村上「英語の勉強で・・・」
ホ「ああそう、とりあえず君たちの水と一緒にこの私の水も買えるよね?」
私&村上「ちょっと意味がわからない」
ホ「一緒に水買ってって言ってんの」
と全く意味がわからないことになった。しかも英語はほとんど聞き取れずニュアンスで理解し、スッと逃げたのである。
他の客がこのおっさんを避けていたのはそういうことだったのかと後で気づき、「海外怖いね」とこの時感じた。(後に対処法を覚えていき、数ヶ月後にはなんとでもなくなるのである)
そろそろもう足が限界だと感じたところでようやくウォーターフロント駅の近くまで戻ってきた。
お腹が空いたので駅近くの「Tim Hortons」というアホほどいろんな場所にあるドーナツが有名なカフェで、ハンバーガーだけ頼む。
村上「疲れましたね」
私「はい、とっても」
色々あったようで何もなかったが、2日目が終わった。
家に帰り、休憩したらもう晩御飯の時間。
おかずは、昨日と全く同じものだった、ピザ無しで。村上と私は無言で目を合わし、そそくさ食べると部屋に戻ったのである。
村上は明日から学校が始まり、私は何もしない1週間が始まる。
美しい写真とピリッとした文章が素晴らしいと思いました。留学応援しています!
ありがとうございます。緩く更新していきます。