バンクーバーの電車とバス

到着2日目。

“やけに早く目覚めてしまった。無機質な天井が私の視界を支配する。外はまだ暗い。朧げ(おぼろげ)に部屋を見渡したら重い頭を枕に預ける。しばらくして、体温で暖かくなった布団の中で体を丸めると、急に動悸が激しくなってきた。「自分の知らないどこか」が掴みどころのない不安の波を私に押し寄せてくるのである。”

とか言ってみたかった。

爆睡していた。

時差ボケを心配していたが、あの時の時間を返してほしい。

“いや〜到着してすぐは時差ボケがなかなか治らなくてさぁ”とか、

”時差ボケにやられて、トイレとお風呂を間違えちゃってさぁ”とか、

はたまた、”時差ボケのやつ、ベッドまで潜り込んできてさ”などと、

全部時差ボケのせいにして時差ボケとのろけてみたかった。

今までの生活で、海外旅行の経験はあるが時差ボケというものを経験したことがなく、

時差が大きいハワイに行った時も、空港から市街地に到着して早々に、知らないおじさんにインコかオウムを肩に乗せられてお金を取られたり、銅像みたいに動かない道端パフォーマーのチップを強制的に払わされたり、どこかに座ると首が折れたり、トロリーバスに乗ると寝てしまったり、ダイヤモンドヘッドをビーチサンダルで登りズッコケたりしたが、これらは時差ボケではない。夢描いたあの時差ボケではない。単なる疲れであると私は信じている。

そして、昨日からあることに気づいた。

隣の部屋との壁が異常に薄い。ほぼオブラートと言っても過言ではない。舐めたら溶けそうなぐらい薄いが、綺麗ではなかったので舐めるのはやめた。

気づいたのは村上のいびきだ。

どうせゴスペラーズの村上てつやに似るなら、いびきは綺麗なハミングにしてほしかった。

薄い壁といびきのシンクロで私の睡眠を根本から邪魔してくるスタイルを彼は貫いて、ホームステイ終了まで譲らなかった。私は思う。仕事でも趣味でも何でもそう、信念を変えないって素晴らしいことなのである。たとえいびきであろうとも、彼は何か1つやり抜いたのだ。

ただ、

“たった一つのこと約束したんだ、これから二度と悲しい歌、聴こえないように”

そう言っていたはずだ村上よ、聞いてるかい?

大人なんだから、約束守れよ。

さて今日は、電車の定期券を購入して、いびきの村上くんと学校までどれくらい時間がかかるか検証する日である。

Snore 村上は午後1:00からの授業なので早く起きる必要はないが、なぜか早起きして身支度して、バス停に向かった。

さてここからが初めての難関だ。第一関門、「バスの運賃を払う」をしなければならない。

「初めてのおつかい」が海外で人気だそうだが、「30前後の男がいく、初めてのバス乗り」も番組としてあってもいいんじゃないかと思った。急に母国から連れ去られ、異国の地で放り出され、バスに乗るのである。おどおどしながら運賃を払いたいが、値段がわからず地団駄やサイドステップを踏みながら困り果てながらも懸命に挑み母国へ帰るまでのヒューマンドラマを描く、、、、と思ったがこれは「電波少年」的企画な気がしてきた。というかほぼそうである。ボツ企画だな〜とブツブツ言いながら朝の寒い住宅街を歩いた。

電波少年的初バス乗りのタイミングがやってきたが、自分の思い描いていた通り地団駄とサイドステップを踏んでいた。ボツ企画に自分からハマりに行って見苦しいが、これが普通に生きる30過ぎの男の振る舞いだ。

このちぎり方で何がわかる

そうしているうち、運転手が口を開いて、「とりあえずその現金箱の中に入れろ」的なことを言ってきた。

握っていた4ドルを集金箱に入れると、ビリビリの紙を渡された。これでバスには乗れるらしい。

後でわかったが、現金でバスに乗るとき、一律3.05ドルでお釣りは出ないらしく、きっちり回収された。

いきなり95セントの損である。ごく一般人としては先行き不安になる結果であるが、電波少年的には「おいおい中途半端で何をしてくれている、損するなら100ドルくらい取られろよ」と言うところで、本当にしょーもない2分間の出来事だった。ちなみに電波少年も詳しく覚えていなくて、有吉が猿岩石で出てたのは電波少年か雷波少年かどっちだったっけくらいの知識だから、もうどうしようもなくしょーもない。

ボタンもあるが、この紐を引っ張ると次のバス停で停まってくれる

バスに乗った後は、常に降りるバス停を気にしながら座っていた。電光掲示板はぜんぶ同じ文字に見えるし(その時は)、アナウンスも何を言っているか全然わからない(留学終了までずっと)。

幸いにも電車の駅でのバス停で降りる為、ほとんどの乗客が降りてくれたので、僕らも時の流れに身をまかせ、ふわふわと下車したのだった。

続いて第二関門、「電車に乗る」をする。

電車は、ゾーン1〜3に運賃が分かれていて、我々はゾーン3という料金を支払わないといけない。関東であれば幕張から東京、関西であれば姫路から大阪、東海であれば浜松から名古屋といったところ、なんでそんな遠いんだ。のちに「何で同じ料金を支払ってゾーン2の留学生もいるのに、不公平ではないか」との意見を現地のエージェントに差し出したが、「なかったんですよ、こっちはホームステイ先を見つけるのも大変なんです、あるだけマシだと思いやがれこの三十路過ぎの鼻くそ野郎」とは言われなかったが、それくらいの心意気は見てとれた。

ダウンタウンからゾーン1、郊外になるとゾーン2、3と値段が高くなる。

券売機の前に立って切符の種類を確認してみる。親切にも日本語対応しており、先住の日本人の方ありがとう〜ありがたく恩恵受けさせていただきます〜と券売機に合掌する。翻訳も割と的確でいい感じ。

さぁ次こそは、心配させないでくれよ・・・と思いながらゾーン3を選択し、現金を入れる。

10ドル札を入れた。

詰まった。

エラーです、お釣りも返ってこない、切符も出てこない、、、はいもう終わりました、留学生活できないです、、、

「お疲れ様でした、お世話になりました」と、三つ指ついてホストファミリーに言い残し日本に帰ろうと思う。

と思っていると、たまたま居た駅員が何を言ったのか理解不能だったが、私に切符を発行してくれた。

ありがとう・・・でもお釣りがあるんです・・・6ドルほど・・・私のお釣り・・・

朝起きてからの1時間で既に7ドル近く損していることになる。

ちなみに、このSkytrain という電車だが、Trans Link社という会社が運営しており、電車もバスも全て同じ会社である。だから、同じ切符で乗り換え可能だし、90分以内であれば、支払った金額のゾーン内は乗り放題というなかなか太っ腹な一面も。でも、ゾーンを跨ぐ(またぐ)時にはたとえ一駅であっても次のゾーンの料金を支払わないといけない、そういうケチな一面も。

運転席は無い

そして、この電車はなんと無人で動いている。基本的にほとんどの駅に駅員さんはおらず、全てオートマティックにスマートに走っている。

もちろん扉もスマートに閉まる。容赦なく閉めるので、人が挟まることもよく見かけた。カナダ人も日本人と同じように、駆け込み乗車する人がおり、ほぼ閉まってるのに両手でこじ開けて入る人もいる。

怪力の人多め

その時、扉の力に打ち勝つからこれまたすごいが、とっても危険が危ないので、私は扉の端を刃物にして横ギロチンみたいにすればみんな穏やかに乗るんじゃないかなどと考えたが、そんな発想の私が一番怖い。

ちなみに、電車とバスに関して、私の個人的な意見を織り交ぜた説明では不十分だと思うので、下記のサイトをどうぞご参考に。

https://lifevancouver.jp/compass

なんとか電車に乗り、約40分。その間、村上の身の上話を色々と聞いた。そんなに興味はなかったが、今、日本語を話せる唯一の存在だし・・・いびきはうるさいけど大切にしようと思う。

彼の話では、彼は一度バンクーバーに遊びにきたことがあるらしい。自慢げに話をしていた訳ではないから特に何も思わなかったが、ダウンタウンの道の名前をうる覚えで教えてくれたり、彼の友達が住んでいた場所をうる覚えで教えてくれた。その彼が唯一はっきり覚えていたのが「スタンレーパーク」という大きな公園で、彼はこの公園が好きらしい。

さてさて、村上の最寄りの駅に着いた。村上の学校は、駅から5分のところにあるのだそう。

歩いて、5分。

村上「あっここですわ」

私「うん、そうか」

午前8:45、終了。もう一度言うが、村上の授業は通常午後1:00からである。

アホほど時間があるから、せっかくだし私の学校も確認しようということになった。村上の学校からは1駅離れてるらしいが、歩いてもそんなに距離もなさそう。

15分ほど歩いた。私の学校に着いた。

私「あっここやわ」

村上「はい、そうなんですね」

午前9:00、終了。

・・・

村上「スタンレーパーク行きます?」

私「そうしよか」

続く。

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